KISSの活動が停止してしまっている今だからこそ、再びPaulの“The Phantom Of The Opera”について 振り返ってみましょう。
そこからThe Farewell Tour後にPaulの進もうとしている道の一つが見えてくるのではないでしょうか。

The Phantom Of The Operaby ちー姉
1999年7月、トロントのパンテージズ・シアターは 広くて格調が高く、大きな絵画や天井画、豪華なシャンデリア、 マホガニーとブルーで統一された英国調の装飾と、 予想以上に立派なものでした。 グッズ売り場には隅のほうにKISS-Tも置いてありましたが、 それがちょっと、なんとも言えない違和感。

ほぼ満席の観客は半数以上が、 明らかにKISSファンではないだろうという人たち。 おじいちゃん、おばあちゃんたちもけっこうたくさんいました。 あと、小学生ぐらいの子供たちも多かった。 KISS-Tを着たひとも2,3人みましたが、 見た限りではジャケットやシャツを上から着ていて、ちょっとばかり遠慮がち。

直前に飛び込んだので、席につくとすぐにアナウンスがあり、 客電が落ちました。 いよいよポールの「The Phantom Of The Opera」の始まり、ぱちぱちー!

ポールの登場は一幕中盤からでした。 「The Phantom Of The Opera」、「Music Of The Night」は、 やっぱり最高!でした。 ポールの声は独特の力強さで、 トーンの高い部分では「あ、ポールだ」とわかるんですが(笑)、 中音域などはKISSのポールとは全く違う発声でした。

あと、やっぱりファントムの動きが独特。 立ち居振る舞いが普通じゃない。 ファントムが人前で堂々としているときには割と普通なんですが、 相手役のクリスティーヌと二人になったり一人きりになったりすると、 挙動が不審になるんです(笑)。 演出や演じる人によって ファントムっていろんな解釈ができるらしいんだけど、 ポールのファントムはあんまり怖くなく、狂気にも走らず、 ひたすら不器用で哀れです。

女性のいたずら心で仮面を剥ぎ取られたファントムは、 醜い素顔を見られて激怒し、 その後、床に身を投げ出して嘆くのだけれど、 このときのポールの演技は見ものです。 クリスティーヌも観客も、一気にファントムに同情します。 これをポールが演じているということを、何度も忘れるほどでした。

2幕、墓場のシーンでは、ファントムが十字架の中から現れます。 あら、そこにいたのね、というシーンは他にもいくつかあって、 きっと、裏ではえっさおっさと走り回ったり、 物陰にじっと潜んだりしているんでしょう。

ファントムの演技で注目する一つは手の動きです。 ポールは手が大きいので、有利かもしれませんね。 とくに頭からフードをかぶっているシーンでは、顔が見えないので 手の動きだけでいろんなことを表現しています。 そのフードを、今度は大勢の前で剥ぎ取られたファントムは、 顔は醜く(特殊メイク)、頭はハゲハゲ(特殊メイク?)(^^;;)

最後のクライマックスで、 ファントムはクリスティーヌの恋人の首に縄をかけ、 自分を取るか、拒絶して恋人が死ぬのを見るか、彼女に迫ります。 2人の感情のいろんな葛藤が、こっちにまで迫ってくるシーンです。 観客もみんな引き込まれて、息をつめて見ていました。 ほんとに、すごい迫力でした。 そこでクリスティーヌは「あなたは独りじゃないのよ」と 突然ファントムにKISSをします。(おおっ!)

このときのファントムの演技がいいです。 相手の身体に手を回すでもなく(躊躇してる?) いろんなものがアタマの中を駆け巡っているというか、 目からウロコが落ちたというか、 離れてからもまばたきしながら頭を振ってフラフラしたり、 とにかく、そこで彼は彼女に、 恋人とともに去るように命じます。

一人になったファントムは泣き崩れます。 そこでふっと触れた、おさるのオルゴールが 優しい音色を奏でだします。 ファントムはちょっと笑って、前より泣きます。 (このオルゴール、ずるい演出です。ホント泣けます。) 客席からは、あちこちでぐじゅぐじゅいう音が。

そこへクリスティーヌが戻って来ます。 とたんに、ファントムは立ち上がって健気に平静を装います。 彼女は指輪をファントムに返し、 彼は彼女の手を取って、「愛してる」といいます。 でも、彼女は身を翻して去っていく。

再び残されたファントムは とぼとぼと椅子に座って頭からマントをかぶります。 劇場のひとたちがファントムをつかまえるためにやってきて、 椅子のマントを取ると、そこにファントムはいなくて、 彼の仮面だけが残されてました。



ポール、素晴らしかったです。 もちろん、他の役者さんみたいに 昔からミュージカルをやっているわけじゃないし、 ポールの声はハスキーなので、 オペラのように朗々と歌い上げるというわけにはいきませんが、 それでも他の役者さんに見劣り(聴き劣り?)しなかったです。 トーンの高い部分や、シャウトする場面などはポール入ってましたけど。 KISS Asylumのインタビューでは、特に訓練はしてないとのことでしたが、 本当かな?と思わせるぐらいの声でした。

それに、やっぱり演技。 ホントに素人だっけ?このひと。 ポールファンのわたしが、 「ファントム=ポール」であることを忘れて 引き込まれてしまいました。 (ファントムファンにもなってしまった) 本来ならもうちょっと強烈な個性があってもいいのでしょうが、 ポールのファントムは とにかく情けないくらい(笑)弱みを見せてしまうファントムなのです。

カーテンコールはわたしの見た2回とも 最後のポールの登場でスタンディング・オーベイションでした! KISSを知らないであろうおじーちゃん、おばーちゃんたちも 満足そうにポールに拍手を送っていました。

ちょっと可笑しかったのは、カーテンコールでのポールが まるきり、KISSで見る「ポール・スタンレー」だったこと。 (ハゲハゲはすでにヅラで隠してあるし、仮面もつけてる) もちろん礼儀正しく、ではあったけれど、 いつもの自信にあふれた姿がかえって新鮮でした(なんか安心した)。 KISSのファンからしたら、KISSじゃないポールというのは ちょっと哀しいものがあるんじゃないかと思ってましたが、 KISSを離れてがんばっているポールというのも いいものでしたよ。

実はわたし、ミュージカルというものはあまり好きじゃなかったんですが、 この「オペラ座の怪人」が、なぜ世界的に愛されているのが わかるような気がしました。 今はポールのファントム、ブートビデオでも出回っているようなので 一度ご覧になってみては?